ラッキーとあいつと妻(10)
あいつは昨夏、同窓会で久しぶりに中学時代クラスのマドンナであった志乃と直接話し合える機会に恵まれたらしい。いい調子に酔っ払ってトイレに立った帰りの廊下で、偶然あいつと同じように酔いを醒ますべく窓を開けて風に当たっている志乃に出会った。
「お久しぶり。お元気そうね」
あいつを待っていたかのように志乃から声をかけられた。微笑んだ可愛らしい笑窪は中学時代と同じだった。その笑窪がなんとも堪らなく魅了された男子生徒は数知れなかった。中でもあいつは未練を断ち切れずにいた。
「ああ、身体だけは元気だよ。貴女も元気そうじゃないか」
あいつは酔いで薄紅色に染まった笑窪に見とれながら云った。
「ええ、ありがとう。お陰で元気よ。懐かしい仲間に会えて楽しいわ」
「ああ、みんな子供にかえって楽しそうだね……」
「ええ、ほんまに……」
そこで二人の会話は途切れた。無言で唯見詰め合うだけだった。二人とも殊更に家庭や家族の話題は互いに避けていた。二人とも家庭がうまく行ってないのかも知れない。
「明日、屋島に行かないか」
あいつは中学時代に戻ったような錯覚にとらわれ唐突に云った。
「え、屋島」
「ああ、何時だったかなあ遠足で行ったろう。あれから行ってないんだ」
「ええ私も長いこと行ってないけど、あそこは若い人たちのデートコースでしょう」
「いいじゃないか。昔に戻ってデートしよう」
一瞬志乃は吃驚したように耳を疑った。閉経期を迎えた五十過ぎの小母はんを誘ってくるあいつの真意が分からなかった。今更デートでもあるまいに何で。
「見晴らしも良いし、カワラケ投げたいんだ。帰りにどこかで食事でもしないか」
「食事、食事だけならいいけど……」
志乃は自分に納得させるように戸惑いながら応えた。
「明日車で迎えに行くよ。何処で待っていればいい」
「車は困るよ。誰かに見られないとも限らないし近所の手前があるでしょう」
幾ら年を取っても近所の噂にはなりたくない気恥ずかしい乙女心が残っているようだ。
「そうだな……田舎では拙いか。じゃケーブルの登山口で二時に待ってるよ」
あいつは勝手に午後二時と決めた。
「二時ね……ええ、いいわ。」
志乃は二時という時間に少し躊躇したが思い切るように明るく云った。水玉模様のワンピースは志乃のしなやかな少し丸みを佩びた身体のラインを浮かび上がらせていた。青い水玉に入り混じったセピア色の水玉が派手さを抑えていた。
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