ラッキーとあいつと妻(15)
それでもあいつは飼い主としての自覚が少しは芽生えたのか早速保険福祉センターに登録すべく電話をしておった。
「はい、それで犬の種類は」
「ええ、種類?種類は犬ですよ」
「犬は分かりました。だから犬の種類ですよ。マルチーズとかヨークシャテリアとかいるでしょう」
「そんな立派なもんじゃありませんよ。捨て犬の子なんですから」
「捨て犬の子?それでメスですかオスですか」
「はい、メスです」
「何歳ですか」
「わかりません」
「わからない…分からないってあんたね!いい加減な人だなあ……宜しい、今各地の小学校を回って狂犬病の注射をしていますので近くの小学校の巡回日を通知しますから必ず連れて来てください。そこで種類も年齢も分かると思いますので。よろしいですなあ」
「はい、承知しました」
ラッキーは指定された日曜日あいつに連られて小学校やらに赴いた。今まで通ったことのない初めての道だ。何処へ連れて行かれるんだろう。あいつを百パーセント信用しきれない不安と緊張から便を催した。道路の真ん中で消化しきれない柔らかいウンコをしてやった。
「あ、こいつ何をするねん!道の真ん中で」
あいつは文句を云いながらチリ紙で糞をドンくさい格好で掴み取ろうとしたが柔らかくてきれいに拭き取れないらしく、
「朝散歩の時ウンコしたやろ、なんで又こんな所でするねん」
あいつは又ポカンと頭を叩きやがった。やっとの思いで小学校に着いたら多数の仲間がいたが母さんは見当たらず洋服を着たり可愛いリボンを付けた血統書付きの犬ばかりだ。少し気後れしているところに大きなラブラドール‧レトリーバーが気安げに近寄ってきてお尻の周りをウロウロと嗅ぎまわるので<ウウッ>と威嚇して飛び掛ってやった。
「まあ、乱暴な犬ねえ!躾けしてないのかしら」
中年の細身な小母はんは薄紫のサングラスの奥でラッキーを睨み付けながら小声で文句を云ったがあいつは横を向いたままうちの犬じゃありませんよと言わぬばかりに他人の振りをしているやがる。
そう云えばあいつの妻がよく愚痴っていた。二人で電車に乗っていてもあいつは独身ですよと言わぬばかりに離れて腰掛け見知らぬ女性ばかり見つめていたと。
<ヤレヤレ冷たい主人だ。先が思いやられるよ>
「何云ってやがる。お前は怖がりの癖に飛び掛るのがいけないんだよ。俺まで恥を掻いたじゃないか」
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